self-citation gameという生存戦略

学術誌の論文引用、編集者からの強要横行 米調査 http://t.asahi.com/5i1o朝日新聞

ちょっと各所で話題に上がっている,引用強要問題.
IFことimpact factor,ざっくり言ってしまえば,その雑誌がどれくらいの人に読まれているかという数字ですね.
ここで言う「人」というのは,勿論関係研究者が主であって,故にこの数字は主としてその雑誌の掲載論文の被引用数ベースで出てきています(確か).

Coercive Citation in Academic Publishing
Allen W. Wilhite, Eric A. Fong
http://www.sciencemag.org/content/335/6068/542.summary
Science 3 February 2012: Vol. 335 no. 6068 pp. 542-543 DOI: 10.1126/science.1212540

問題となっているScienceのもと記事はこちら.
アメリカのアラバマ大学の研究者が,論文を書いた研究者に対するアンケート調査などから出した結果のようです.
対象としている研究分野は人文科学系で,経済学,社会学,心理学,商業戦略に関わる学問(市場経済,経営,金融,情報システム,経理学).
朝日新聞で商業戦略学を5つにばらして「8分野の研究者」としていたんですが……,論文そのものの意図を汲むに,ここは4つの分野としておいた方が正解なんじゃないでしょうかね…….Wilhiteさん達の区分では商業戦略関係の分野は「同じ性格」でまとめられる,という話なんでしょう.ちょっと,「広範囲に渡ってますよ」という拡大顕示みたいなものが感じられて違和感.
閑話休題
54712の研究者に電子メールでアンケートを採り,得た回答数は6672,まあ相手にしない人も多いですね,という感じの回答を得て,それらの分析を行った結果が論文にまとまっています.
問題として取りあげているのは,自著引用の強要.自著,とはいってもこの場合は,論文が投稿された雑誌の掲載論文です.
雑誌に論文を投稿する際に,通常査読という過程を経ます.査読とは,その論文が「正しい(誤っていない)のか」「まとめ方は適切か」「その雑誌に掲載するテーマとして適切か」などが分野の専門家である査読者・編集者によって検討され,必要に応じて査読者や編集者から修正要求・疑問が出され,論文の著者は修正要求を受け容れたり,その要求は間違っていると訂正したり,或いは疑問に答える.その過程を言います.
査読の過程を経ることで,論文は「著者が言ってるだけでなく少なくとも査読者が納得したこと」という箔がつき,原稿も伝わりにくいところが読みやすくなったりと質向上がおきます.
さて,で,今回問題となっている「自著引用の強要」という現象は,査読の過程で編集者が,その雑誌の掲載論文を引用せよ,と半ば強要してくるという動きです.
いやそもそもなぜそんなことが起きるのか.そこもまた問題ですが,これは最初に述べたIFが関わってくる問題.
結局雑誌としてはIFが高ければ,色んな人から読んで貰えている「価値ある」雑誌となるわけで,編集者はIFを上げたいわけです.
故に,雑誌のIFを上げるために,当然関連分野の人に引用してほしい.行き着く先が,戦略的引用強要,というわけです.
Wilhiteさんたちの定義した自著引用の強要は,次の3つの項目からなります.

  1. 対象となる論文原稿中で“欠けている”と感じられる要素でない
  2. 特定の「この人のこの論文のこの部分をレビューせよ」という指示がない
  3. 「編集者の雑誌の論文を引用せよ」という方向性だけが言われる

三つ目とか,特に「どーなんそれ?」という感じですね.ひどい.
ところが実際,6672人の内2761人がこのような問題を認知しており,さらに1306人が過去5年以内に強要を受けたという結果を返しているそうです.
もちろんWilhiteさんのメールには上述の定義が書かれているので,1306人の受けた強要というのは,この定義に当てはまる酷く漠然として雑然としたものだったのでしょう.
分野の違いもあるのかな?
という印象を受けます.
敢えて偏見を持って言うなら,理系と文系の違いもあるのかな,と.これは理系の分野に身を置く身として,この結果があんまりにも驚き呆れるものだから,という素直な感想です.
論文中では,全てのデータが人文科学系ベースである中で,別の観点を導入して評価しています.
その辺,後に回そうっと.
とりあえず,そんな問題もあるのかーという話.残りは後半へ分割して後日書きたいかなと.




関連ざわつきで一番笑ったのはこれ.東大の鍵先生とそのフォロワーさんの会話.

https://twitter.com/#!/hirokagi/status/166725540487761921

えっ.
という話.