何故中世古香織先輩は公開処刑されたのか−響け♪ユーフォニアム第11話

久々のエントリーがアニメの感想です。よしけむです。


取り上げるのは京都アニメーション制作の「響け♪ ユーフォニアム」。
今季原作ブレイク最筆頭候補の前評判を地で行く感じで快進撃を続けている作品であります。
因みに原作は

宝島社から文庫本で1〜3巻+短編集の4冊が絶賛刊行中。
アニメがそこそこ面白いので、原作の売り上げも伸びており、各地で品薄なもようです(実際ぼくも2巻以降買おうとしてもノーチャンス……)。
だがしかし、とりあえずこのアニメで幸せに浸りたいのなら原作には手を出さないことをオススメします。
それは冒頭でも述べたように、このアニメが原作の良かった点をぐさりぐさりと殺しながら展開しているから。
第11話、「おかえりオーディション」では特にそれが酷かったので、今回はエントリーをしたためております。

花田脚本に公開処刑された中世古先輩


先週10話を見た時点でぼくの中では「ちょっとこれはない」ってなってたんですが、不安が的中した形になったのが今回の11話でした。
最初に言ってしまうと、拍手投票による公開処刑はアニメオリジナルなんですわ。
部内の空気が悪くなっている点までは原作でも割とその通り。高坂麗奈がソロを吹くという状況にトランペットパートを中心になんとなく不満が募っており、コンクールまではひとつの目標でみんながんばれるけど、コンクールが終わったらこの部はどうなってしまうのか、そんな空気が部内に生まれていたのです。
アニメでは滝先生がその空気を部活が成立しないレベルにまで誇張して滝先生をして困らせるレベルにしていましたが、原作ではコンクールまではみんなとりあえずがんばって良い演奏をしようとしていると、そんな感じでした。
なので吹奏楽しか眼中に無い滝先生は演奏指導一辺倒で、場面はコンクール前日のホール練習までやってくる。
そして、明日は本番という練習のさなか、香織先輩は突如直訴します。
「もう一度、ソロ部分のオーディションをして欲しいんです」
つまり、あの再オーディション自体がそもそも香織先輩から言いだしたことなのです。
ここを何故滝先生、つまり教師の側から公開オーディションという形で提案するように変えたのか、それに本当に意味があったのかが、ぼくにははなはだ疑問です。
10話の段階で、まずこれは教師の側から言い出すのではなく香織先輩が自ら言い出すから良いのだろうに、と思っては居ました。が、もし11話で教師から言い出した点が意味がある演出に変更されるのであれば……、そう期待を込めて一週間待ちました。
で、出た結論。ないわー。
中世古香織さんに投票した人:北宇治の島風こと吉川優子ちゃんと、小笠原部長


大正義高坂麗奈さんに投票した人:我らが黄前久美子加藤葉月


どっちもお友達しか投票してねえじゃねえか!
10話で松本先生が「いい音はいいと言わざるを得ない」と言っていたのはなんだったのか。
ねえ、ほんとなんだったんですか?

まあ、どういう意味だったかというと結論は出てるんですけどね。
結局この部活で本当に全国に行くためにいい演奏をしたいと思ってる生徒が、まだ殆ど居ないってことなんですわ。
彼ら・彼女らは、まだ自分たちが京都府大会を抜けられるかもよくわからない。自分たちの演奏が以前と比べて格段に良くなっていることはわかっている。だが、そこで「少しでも良い演奏をするために非情な判断を下すだけの覚悟」がまだない。だから、こうやって高坂麗奈に拍手をすることができない。
元々香織先輩がソロを吹くべきという意見により部の空気が歪んでいたことを受けて行われたオーディションで、結局吉川・小笠原の2名しか香織先輩に投票出来なかった点は、考えようによっては高坂麗奈の実質勝利と言えるかもしれません。
部内学年ヒエラルキーなどに固執する部員たちを、高坂麗奈がトランペット(因みに実際はコルネット)で黙らせたと言えるかもしれない。
けれども、それなら高坂麗奈に投票させる前に聞くべきだったんじゃないかと、ぼくは思う。
部内の空気がめちゃくちゃになるほどの対立の末オーディションまでして、結局香織先輩を支持出来るのはお友達2名のみ。ここで滝先生が高坂麗奈の評価を待たずに「あなたがソロを吹きますか?」と言ったら、ある意味それはものすごい名作になったんじゃなかろうかと、ぼくは思う。
それは、本当に良い演奏だけを目指す非情の質問だから。
まあ、実際そこまではいかないのですけれども。

原作ではあくまで学生主体で回っていて、良い演奏には良いと言わざるを得ない状況が発生している

では原作ではどうなっていたか。
まず、香織先輩のソロ。因みに原作ではソロの人だけでなく音があるパートの人は合奏として演奏してます。

欠点が何ひとつ見当たらない。キラキラとまばゆい彼女の音色。それに浸るように、久美子は目を閉じる。香織の演奏は格段に上手くなっていた。血のにじむような努力の跡が、その演奏からはうかがい知れた。

香織先輩が上手いことはここで十分みんなも感じている。そう、実際、香織先輩は上手いのだ。昨年「学年が上と言うだけでろくに練習もせずソロをとっていた先輩」とは違うのだ。
この点は、例えば原作では川島緑輝をして「でもさ、香織先輩をソロにしても結構なとこ狙えると思うよ」と言わしめている点からもうかがえる。
だが、高坂麗奈は上手すぎるのだ。
彼女は、アニメでやってたよりもっと問答無用でみんなを巻き込む上手さなのだ。

最初の一音目がラッパから飛び出た瞬間、久美子の耳は明確に先ほどとの差異を感じ取った。脳みそをぶたれたような衝撃。高音が空気を揺らし、久美子の耳へと突き刺さる。迫力のある音色は、しかし美しい響きを保ったまま、まっすぐにホールを駆け抜けていく。同じ楽譜を見て同じ音を再現しているはずなのに、何故二人の演奏はこうも違うのだろう。そのしびれるような音に、久美子は思わず唾を飲んだ。

これは演奏を合わせている久美子の感想だ。だが、これは他の部員も同様である。

「ありがとうございました」
滝の言葉に、麗奈が楽器を下ろす。そこで我に返ったように、部員達はざわざわと動き始めた。合奏中だということを忘れたように、みんなが口々に演奏の感想を言い合う。興奮しているのか、どの頬も紅潮していた。


この「うわー……どうしよう、高坂麗奈の方が上手かったけど中世古先輩にソロ吹かせてあげたいしー…………」って微妙な顔してるアニメとは違うんですよ。
そんなどうしようも無く上手い高坂麗奈に負けたから、香織先輩は素直に負けを認められたんですよ。
そんなどうしようも無く上手い高坂麗奈だから、みんな納得して演奏出来るんですよ。
それは、みんなきっと合奏練習をする中でわかっていたことで、わだかまりは抱えながらも高坂麗奈がソロを吹くべきだっていうことは内心理解してたんですよ。だけど、それを「オーディション」という形で、自分たちが改めて「評価する視点で聴く」。そういった中で、香織先輩の「完璧な演奏」のあとで更に脳みそをガツーンとやられる。だ! か! ら! 高坂麗奈がすごいってことが改めてわかる。
そんな場面なんですよここは。

数秒の沈黙のあと、彼女は答えた。
「吹かないです」
うつむいた拍子に、その目から滴が落ちた。
「……吹けないです」
麗奈が驚いたように顔を上げる。香織はまっすぐに後輩を見つめた。その視線の強さに、麗奈が珍しくたじろいだ。
「ソロは、あなたが吹くべきやと思う」
その声は震えていて、その瞳は赤かった。それはおそらく香織の本心であり、そして本心とはほど遠い感情だったに違いない。

そして、香織先輩自らの敗北宣言。それはアニメで描かれていたようなあっさりしたものではなく、本当に重いものだったんですよ。
負けるために戦いを挑み、完膚なきまで負けて、その結果は最初から分かっていたことであるにも関わらず涙をこらえることが出来ない。ここまでやって、香織先輩はようやく自分の納得を得ることが出来た。

島風ちゃんに泣かせる必要はなかったんや。いや、吉川ちゃんは正直脚本の嫌な役どころを全部押しつけられてるから、ある意味では泣いて良いんですけどね。でもね、ここは香織先輩のアツさをもっと出して欲しかった。
自ら再オーディションを申し出る場面、そして敗北の涙、両方削られてしまって、中世古香織が敗北した相手は高坂麗奈だったのか、それとも花田十輝だったのか
因みに原作ではこの後、高坂麗奈さんが「あのときは生意気言ってすみませんでした」って言ってるんですよね。歴史的和解。アニメでは吉川ちゃんが泣き崩れてカットされたけど。これはもしかしたら12話でシーン回収あるかもしれませんが。

画面巧者の話し下手



画面作りは相変わらず京アニらしい良さが出てて、細かな上手さをさらっと入れてくるなあって感じですよね。
例えばここ。
香織先輩に投票する吉川ちゃんと高坂麗奈に投票する久美子の対比。きっちり左右振り分けてくるあたりとか、何気ない演出として相変わらずさらっと上手く描くなあという感じです。
これがもっと話の面白さと絡んだら……と思うとほんと残念でならないのが、京アニ is 京アニって感じです。
「アニメは原作と違う良さ」みたいなものを常に意識している京アニ作品、果たしてそれって良いことなんですかね? そりゃ、勿論色々改変・再構成を加えた結果いい作品になってるアニメなんてのも世の中には沢山ありますが、京アニの改変というのはどうも毎回「原作の設定を使って俺たちが描きたい者を描く」という、二次創作的な欲求が根底に見え隠れするような気がするのです。
香織先輩と吉川ちゃんの回想シーンとか入れてたから、「女の子同士のアツい演奏バトル」ではなく「百合」を描きたかったのかなと。そっちにベクトルを振った結果、原作にあった良さを殺してるんだろうなーと。そう思わざるを得ないこの再オーディションの下りでした。
アニメ化を行う主体としてその態度で良いのかなと。まあ、売れてる以上京アニはこの形を取り続けるんでしょうけれども……。原作の良さを120%引き出す形で最高の作品を作る会社と比べると、どうにもね……というしこりは残ります。


余談ですが、

高坂麗奈の演奏に対して葉月ちゃんが拍手している一方で川島サファイアが実は拍手してないの、これはすごく原作リスペクトしてるんですな。
川島サファイアは中学時代強豪校に居てドロドロした競争を一杯見ている分、「部内の空気が荒れるくらいなら香織先輩がソロでいい」っていう考え方してるんですな。勿論本人もそれが正解とは思ってないんですが。
そんな細かい点をリスペクトするならもっと重視して採用すべき場面が一杯あったのでは? と思わざるを得ないワンシーンでした。