Zeroへと還る

Fate/Zero全巻読了です。1巻を読んだのが2月の頭、足かけ3ヶ月かけて読んだと言うことになりますかな。最近[読書]カテゴリーの記事が全然無いのは、読んでる絶対量が少ないのと、読んでも書いてないのと、両方あるわけですが……、まあZeroは途中で書くのもなんだかなぁ、というかそんな感じで今まで書かず。いや、実際には2〜4巻は4月入ってから読んだんですが。
さて、ようやっと全巻読み終えましたし、まとめて感想でも。
自分は意外とバッドエンドが好きなのかも知れない、というのはきっと虚淵式テクニックに惑わされているだけなんでしょうな。いや、思うにこのZeroはバッドエンドではないのでは。そうですよね、stay nightで救われることが決まっている上に、そこへと繋がる希望の道筋だってかすかに煌めいている以上、これはバッドエンドではない。だからバッドエンド嫌いの僕でも素直に受け入れることの出来た結末……、そんな感じでしょうか。
それでは個々に少々。

2巻。王たちの狂宴。キャスターの狂態とライダー&アーチャーの大物っぷりがとにかく頭を付いて離れない話でした。七人のサーヴァント、その内セイバーとアーチャーは第五次へと引き継がれることが確定しているということで残り五人のサーヴァントがこのZeroの物語で生を受けたわけですが、それぞれに鮮烈な個性と強烈なインパクト、そして物語を綴っていく上で運命的とも言える要素を孕んでいますね。一部の無駄もなくそれぞれの出自が絡み合い、一つの模様を形成するそれはZeroへと至る天上の織物。サーヴァントは強力な召喚触媒を用いない限りマスターに何らかの縁のある、或いは近しい要素のある者が召喚されるという話でしたが、物語を見ているとそもそも召喚触媒でさえマスターの手に渡るのはある種の運命的邂逅、全てが予定調和された必然であるとさえ思えてきますね。まあそれは物語である以上は必然なので、感心する店としてはおかしいと思うのですが。
stay nightが士郎の一人称ベースでマスター同士のやりとりを中心に描かれた物語である一方で、このZeroはセイバーを中心に据えてサーヴァント同士の物語にかなり重きを置いているぶん、戦闘シーンの熱さは以上ですね。流石は一度は歴史を轟かせた英雄たち、彼らが望む戦闘には駆け引きという言葉では描き尽くせないやりとりが張り詰めて、観測者を否応なく戦場へと引き込んでいくようです。そして勿論、単純なよしけむはランサーとセイバーのやりとりが何とも言えず溜まらんわけですな。1巻で邂逅し、聖杯戦争最初の戦いの引き金を引いたランサーとセイバーの両英霊だったわけですが、その戦いによって結ばれた絆がこの二巻でも遺憾なく発揮されており、胸が高鳴りましたね。キャスター戦なんて格好良すぎるっていう話でありまして、あー、武勇と仁義の両方を備えている騎士たちはやっぱり凄いと感じざるを得ない。
英霊たちがそのような心躍る戦いをしている一方ではマスター戦も行われており、その落差というのもまた何とも言えず凄いものでしたね。切嗣とセイバーの落差、すれ違い、それもこの物語のテーマの一つなのでしょうが……、同じ勝利というものを目指していても辿る道筋は全くと言っていいほど別物。貪欲に確実な勝利を狙う切嗣と、己の力を信じ筋を通して正々堂々と挑んだ上で勝利を目指すセイバー、このすれ違いがこれからどう物語をゆがめていくのかが気になって仕方がないという感じですね。
それらの後、訪れるライダーと彼の持ちかけた勝負。いや、まさかこんな場面を聖杯戦争で観ることが出来ようとは、という光景は、文章媒体であるにも拘わらず眼福といった感じでしょうか。アーチャーとライダー、それから我らがセイバーの三人の王がそろい踏みをしての対決。奈須きのこ氏曰く第四次聖杯戦争のプロットは「セイバーがアーチャーとライダーに虐められる話」だそうですけどまさにそんな感じでしたね。相手を量り、互いを認めあったアーチャーとライダー、そして彼らの言うことを理解できずに一人憤る幼いセイバー。stay nightセイバールートであらわになる彼女の疵がここで赤裸々にされるわけですね。むー、こういう形で物語を展開するとは……、流石。

3巻。散りゆく者たち。サブタイで分かる通り一杯人(サーヴァント)が死んでいく話ですな。キャスター戦は少々意外でした。共同戦線という展開は好きですし、ああいう一大バトル勃発の場には結局みんな集まって騒いでいる、っていう展開も好きです。そうでなければ狭い街で物語を展開する意味も無いですし。ただ、ちょっと唐突だったような気もしないではないかなと。龍之介との会話が契機になってキャスターをあのような凶行に走らせただろうことは分かるのですが、結局アイツは何がやりたかったのかよく分からないなあ、と思ったのは僕の読解力が足りてないせいなんでしょうかね。ある意味バーサーカーよりもたちの悪い凶人なんだから、仕方ないと言えば仕方ないのかも知れませんが。
そして、ランサーの散り際が何とも言えず……、運命を変えることは出来ない、という強烈なメッセージがそこにはあった様な気がします。ただ騎士道に生きたいとそれだけを願うランサー。過去の過ちを精算することは出来ないと、それは騎士王が突きつけられたのと極めて似通った命題。あー、切ない。
あとは言峰がぼちぼちはっちゃけ始めているという点がドキドキが止まらないですね。Zeroは切嗣の物語であると同時に言峰の物語でもある。というか既に完成された機械である切嗣と、変わりゆく言峰、どちらが主人公かと言われると言峰なのかも知れないですが。たちの悪い金ぴかにそそのかされて己の本性に迫っていく言峰、彼の暗躍の一挙手一投足が緊張を読者に投げつけてくるようで、目が離せませんね。

4巻。煉獄の炎。終末。そうとしか言いようのない怒濤の展開。はじめのinterludeはまさか手に取る本を間違ったかと思わせるような雰囲気でいて、この物語の根底を形作る重要な鍵。それを脳の片隅に丁寧に飾り付けた後にやってくるのは息つく間もないスピード感溢れる物語。全4巻中最も分厚いにも拘わらず、駆け抜けるように読まされてしまうから長さが全くもって意識されないという圧倒的な筆致。やられたー、と思わざるを得ないわけですよ。
全ての決着は必然的で、その救われ無さも圧倒的。ライダーとウェイバーはやられ組であるにも関わらず唯一悲壮感が無いですが、うーん、ライダーには勝ってほしかったなあ。無理とは分かっていても願わずにはいられない運命の逆転。かの王が負けるなんて嘘だろう、と思ってしまうくらい、ウェイバーと同じくらいに僕は今ライダーに惚れてしまっているわけですよ。まさに王道。セイバーとは全く異なる、アーチャーとも全く異なる、人間として最も望ましい圧倒的な人望に支えられた覇道。こいつが勝てないなんて嘘でしょ、みたいな感じですね。
バーサーカーの方は、まあ結末は結構あっけなかったですね。セイバーを敗北させつつ生き残らせるにはそれしかなかったと言うことか。そして騎士王をより一層聖杯にこだわらせる一つの契機となった戦いでもあると。勝てる道理のない場面、というのを個々まで絶望的に描き出すというのは凄いことですね。
聖杯の中の人を巡る切嗣の逡巡は、この物語の要にして究極の問いでしたね。アレを乗り越えたと言う意味で、やはり切嗣は正義の味方だったのだと思います。例え結果が災害を引き起こしてしまったとしても、あそこで聖杯を壊す決断を出来た切嗣は正義の味方に他ならない。正義、などと口にすれば陳腐にしか聞こえない事柄を堂々と掲げて戦った一人の男の物語、彼が得たものはほとんど無く、彼が救えたものはほとんど無く、それでもその生き様には確かに正義が見えた。

二次展開、そう呼ぶにはこの物語は壮大すぎて、そしてあまりにもFate世界に基づきすぎている。ここまでやれる虚淵玄を本当に尊敬しますよ。でも多分ゲームはやらないんですけど。ていうか今忙しすぎるんで。
凄かった。本当に凄かった。終わってみれば、それに尽きる。