狼と香辛料II

狼と香辛料 (2) (電撃文庫)

狼と香辛料 (2) (電撃文庫)

その作品の最も面白いところ、言い換えればチャームポイントであるとか、長所、そう言ったものはなんにでも存在すると思います。例えば伊坂幸太郎さんの作品であればその痛快なロジックと見事な伏線、そして軽妙な会話、これが伊坂さんの小説の凄いところであり、読者が(少なくとも私が)最も期待している点なのです。
この狼と香辛料という作品、読むのはこれで二冊目ですが、この作品で僕が最も面白いと思う点はずばり日常です。この作品は商人ロレンスと賢狼ホロとの旅路と、彼らが行く先で巡り会うちょっとした(あるいは大きな)トラブル、そしてその中に活路を見いだして賢明に起死回生の一手を撃つ姿を描いた小説で、公式文句では「エポックファンタジー」と名付けられています。新時代のファンタジー、その名は確かに剣も魔法も出てこないこの時に残酷でのどかな世界には相応しい呼び名なのかも知れません。
そののどかな日常、それこそが、僕はこの小説の胆だと思うんですよ。物語が始まる躍動感? そんなモノは必要ない。波乱と回天の予兆? 機転を利かせた大逆転劇? そんなものよりも何よりも、賢狼ホロが憎らしくも可愛く笑い、それにやりこめられたロレンスがやれやれと苦笑いを浮かべる、そののどかな日常こそがどうしようもなくリアルで、いとおしいほどに面白い。それが、「狼と香辛料」という物語の良さだと思うのですよ。だから僕に言わせれば彼らを襲う生死を賭けた大波乱は要らないんですけどね。そうなんですよ、ホロは桃の蜂蜜漬けを見つけて、ロレンスが困ったように苦笑いしながら渋々それを買ってあげれば良いんですよ。なんて言っても、僕は作者ではないからお話を変えることなんて出来ないし、現実問題としてそれ「ばかり」でも小説は成り立たない。やはり他の部分が合ってこそ引き立つ長所ですから。
まあ、そんなこんなできな臭くなってくるあたりで「今回の山場は終わったな」なんて感想を抱えながら読んでいたのですが、今回も今回でやはり面白かったです。
ホロとロレンス、少し距離が近くなって、それでもお互い素直に言うのはどこか癪な気がして遠回しに、互いが含意を理解しているのを理解して掛け合いをしているのが、ホント良かったです。
「ホロの方が呼びやすい」
読み終えたあとに反芻すると、じんわりと胸の中に温かいものがこみ上げてきます。