再始の女王

再始の女王―抗いし者たちの系譜 (富士見ファンタジア文庫)

再始の女王―抗いし者たちの系譜 (富士見ファンタジア文庫)

一応シリーズの切れ目となる作品ということで。積ん読にしてしまいつつ続刊がいつ出るのか期待している割に出ないなあと不思議に思っていたのは内緒です。
謀略で全てを切り開き、知性で治世を作ることを旨とする知謀ファンタジー。異色を放っていたのは間違いないですが、最後の最後には若干無理が出たかなと思わないでもない。
後から整理してみたら、まあ整合性はないでもない。けれど……、と思うところも多々。うーむ、あ、あれだ。「スパイラル〜推理の絆」シリーズに似ていなくもない。本作の方が余程しっかりしているが。

覇者の魔剣結末部で出てきた「初代魔王」なる少女。
彼女が現魔王サラ=シャンカーラのもとを訪れるところから話は始まります。
前作で急速に台頭してきた謀臣のハイエルも一層その出番を増し、今回の終盤はある種群像劇的な、この種の小説には珍しい、主人公以外に可なりの焦点を当てる描き方が成されます。
そう言うことが、しかも多数の属国を背景に照らし出しながらも行える辺り、やはりこの「抗いし者達の系譜」シリーズの世界観がきちっと出来ている証拠。ハイ・ファンタジーとして確固たる土台を持っている証拠なのでしょうね。
とは言え話全体の作りは、今までの緻密さに比べれば幾分甘さを滲ませているような気がします。まあ、初代魔王エルの行動がもともと本意ではないという点を踏まえても、やはり本意を枉げての決意だからこそ作中のように簡単に崩れて良いものかなぁという気はしますね。謀略の皇帝であるからこそ、もっと様々な伏線を張り巡らせて敵の足下を鮮やかに掬う、そう言った知謀を期待していたのですが。けれど結局は描写されていることが真実。なのですがね。

謀略の深遠に至る時、虚言は用いない。

その事と、心からの言葉ならどんな無茶でも時に通用しうると言うことを一緒くたにしては拙いのではないでしょうか。まあ、思っただけのことですが。ですから、まあサラにとってはエルとの決戦を終えた後真実の決着が待ちかまえていて、アレが真の最終決戦ではなかったにしても、今ひとつ最後に精彩を欠いた感が否めませんね。
対照的に、ラジャスは今回でも極めて魔王として堂に入った振る舞いをしていた気がしますね。慎重さと剛胆さを併せ持つ、第一作で敵の懐に敢えて飛び込んでくる大胆さを見せた彼が、今作再び戻ってきた気がしました。ある意味ラジャスというキャラクターの魅力を十二分に発揮したのではないでしょうか。
もとより知謀の皇帝サラ(とはいえ戦えばそれなりに戦えるのですが)、と冷静沈着で賢くもあるがどちらかと言えば戦うことの方でスポットを当てられてきたラジャス。その持ち味を生かすのがどちらの方が容易いかと言えば、どう考えてもラジャスでしょう。知謀だけで全ての問題を解消するのが不可能なことは歴史が証明しています。全てが名誉革命とはならないでしょう。特にファンタジーの世界での、超常的*1な「ラスボス」を倒す為には、ある程度の武力も必要です。そう言った意味で、サラ=シャンカーラというキャラクターはラストでは生ききらない宿命を背負っていたのかなあとも思ってしまいます。
なんとなく、「運命」への決着の付け方も甘いしね。根本的な問題は何一つ解決できていないし。それは、不安定なサッハース帝国とそのまま重なるような気がして、それら全てを解消していくのはこれからのサラの手腕次第なのでしょうけれど。と思わされるだけの伏線は張っていますかね、一応。
「魔力を持たない魔物と、魔力を吸う人間が出会いの最中*2」であるように、彼らは未だ運命に抗い続ける最中なんでしょうね。これからも何か大きな問題が起きればその都度解決して、運命に、大きな流れに抗ってみせる。それが彼ら抗いし者たちなのでしょう。

巻末のKIRINさんの後書きで「ウィチィロポチトリが気になって……」と書かれてますが、一応ティアカバンと一緒に描写されてますよね、その後のこと。読み落とし……でしょうか?
ウィチィロポチトリはなんともユニークなキャラで、僕も好きでした。三巻での活躍っぷりなど良かったですねぇ。
そうそう。ラストシーンでサラが強ばった顔から笑顔になる所。当然のごとく頬を紅潮させた場面が脳内補完されて、不覚にも萌えました。
恋する乙女は可愛いものですね。

どうでも良いことですが「女王」って実際の発音としては「じょぅおう」または「じょうおう」って読んでますよね。
さっきうっかり「じょうおう」で変換して「貞応」と出てしまいました。でもこっちでも普通に変換できるんですね。

そういえば、なのですが。まさかエルってスレイヤーズの金色の王に対するオマージュ的な何かだったりしたのでしょうか、と後から思いました。
彼女も全ての母でしたし(後書きで作者をボコってたイメージしかないですが)。いや、単なる戯れ言的呟きです。

*1:昨日の記事でも書いたのですが、あちらの世界にあって尚超常的

*2:どうでも良いけど文学の中では「さなか」と読まないと気が済まない