涼宮ハルヒの分裂

涼宮ハルヒの分裂 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの分裂 (角川スニーカー文庫)

ひょっとして生協以外で本を買ったのはほぼ半年ぶりなんではないだろうかという驚愕。はおいときましょう。
紹介は、不要ですよね。
季節は巡り春が訪れ、キョンたちも二年生、朝比奈さんは三年生になったというお話でした。
「編集長一直線」で出ていたように、キョンの過去にも少しずつ触れていく方向のようです。今回もとりあえずそんなところからキョンの友人(自称親友)の佐々木なる人物が出てくるところから物語は始まります。以下少々ネタバレ気味。
はじめは、今回問題となるのは涼宮ハルヒの特異性かと思ったのですが、ちょっとそう言う話でもない、のでしょうか。
特に神なんてモノを扱う時には、ある人にとっての神と別の人にとっての神が全く異なるということがあっても良いんじゃないでしょうか。古来ファンタジーに於いて宗教を異にする二つのグループが対決するのが、結局それぞれが崇める神同士の対決になってしまうなんてことは割とあったような気がしますし。
んで、涼宮ハルヒ教ことSOS団と、別の神(=超常存在的少女)を持ち上げる団体が対立するという、そう言う構造に持って行くのかと思ったらどうやらそう言うわけではないらしいですね。
ハルヒと佐々木さんの間で能力の取り合いと言うものが行われたという(勿論本人たちは無意識)構図になってしまうと、結局神の力は一つで、ソレが誰にどう運用されるかを軸にこれからの話が進んでいくことになるんでしょうか。
そして、冒頭で仄めかされる異世界人の存在。
……まあ、大体読めたんですけどね。
異世界人というのが果たして何を持って定義されるのか、例えばパラレルワールドの住人、それも極めて近似したパラレルワールドの住人は異世界人と呼べるのかというのが、僕の気になるポイントですね。
例えばおとぎ銃士 赤ずきんのエルデとファンダベーレは明らかに異世界で、赤ずきん以下ファンダベーレの住人たちは誰がどう考えても明らかに異世界人でしょう。この場合の異世界というのは現実世界に対してあまりにもわかりやすい「剣と魔法の世界」或いはそれに類するファンタジー的要素を持つ世界のコトになると思うのです。
別な例で行くと、ドラゴンボールのセル編でトランクスが未来から来ますよね。彼の住んでいた未来はセルゲームのあった世界と繋がる時間軸状には存在しない、いわばパラレルワールドなので、トランクスは厳密には未来人と言うよりは異世界人と呼ぶ方が正しいでしょう。しかし、彼の場合は立場としては「未来から来た」が優先されて、どちらかと言えば未来人のような扱いをされていた気がします。
朝比奈みくる朝比奈みくる(大)は長門に言わせれば時間異性体だそうですが、そう言えば今までハルヒシリーズに於いて時間平面が気にされたことはあっても、パラレルワールドが気にされたことはありません。同一時間(時間の原点が存在するとしてそこからの絶対値が等しい点)上において状態が違う二つないしそれ以上の世界が存在するという話は、例えばそれゆけ宇宙戦艦ヤマモトヨーコなどには出てくる話ですが、その場合、二つの世界にいるそれぞれのAさんはAさんの異世界異性体、つまり異世界人と表現することが出来るのでしょうか。
なんか「異世界人」というイメージとピタリ来ないので受け容れがたいのですが、しかし今更涼宮ハルヒシリーズに剣と魔法、或いはそれに類する圧倒的に非日常的な世界観の異世界が現れるとも考えがたいです。そもそも、第一巻「涼宮ハルヒの憂鬱」のコピーは見事なもので、涼宮ハルヒシリーズはまごうことなき「ビミョーに非日常系」であると同時にそれが魅力でもありますし。そういえば宇宙人と言ったって「情報統合思念体によって作られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイス」という、ピタリと「地球外生命体」という定義に当てはまる存在ではありませんし、この作者の世界に於いては異世界人が先程述べた「異世界異性体」である可能性は十二分にあり得ます。
それらを踏まえて、今回の終盤のα−β構成を見てみると、割と次の展開が読めて来ちゃう気がするんですよね。今回キョンがちょこっと気にしてたんですけど「未来の俺が来てない間は大丈夫なんだろう」みたいなことを言ってましたけど、多分コレが「異世界の俺」に、正しくは恐らく「βの俺にとってのαの俺」に置き換わるんでしょうね。
そして、大丈夫じゃない状態って言うのは恐らく佐々木さんの暴走。
優等生キャラが暴走するというのは割と良くある話で、朝倉涼子で既にやってると言ってしまえばそうなんですが朝倉の場合は割とややこしい事情がついていたじゃないですか。

  • 今回は、まず一点、佐々木さんの内面世界の無機質さ。コレは暴走フラグだと思うんですね。良い子キャラを演じるあまりに何もかもを消し去りすぎて、精神的にすり減って限界を迎えてしまう。
  • 二点、国木田の発言。「進学校で周りが男子ばかりだから疲れるんじゃないか」という点。これもいささか気になるポイントですよね。まさに精神の摩耗を仄めかすような発言です。
  • 三点、生徒会長もからめた「ペルソナ」の話。豪放磊落な彼のような場合は仮面人格を少々被ったところで何ら問題はないのでしょうが、他の場合だとどうか、と言う点を仄めかしておいて、まさに佐々木さんはピンポイントで仮面人格を被っています。果たして彼女の精神は無事であるのか、なんてところはどこにも保証されては居ませんね。賢いというのはよく強調されていますが、物語世界に於いて半端な賢さがマイナス要因にならないことなんて稀だと思います。
  • 四点、エンターテイメント症候群について夢の中でキョンに佐々木さんが語った点はいかがなものか。アレはキョンの願望に関する前振りだったのかそれとも佐々木さんが無意識のうちに思っている願望を表しているのかどうか。思っても見ないことをあれだけすらすら並べ立てるコトが出来るとは考えがたい、という伏線に思えて仕方がない。
  • 五点、そして佐々木さん自身が「大学に入ったら思い切り楽しむ」だの「全国模試が云々」だの割と抑圧されているっぽい発言を幾つかしていること。

これらのことから総合的に判断するに、次回はきっとβ世界の佐々木さんが暴走して、未来人藤原や超能力者橘もにっちもさっちもいかない状況に陥ったところで、α世界のキョンや他のメンバーがやってくるということになるのではないかとyoshikemは予想しております。
そこに天蓋領域の彼女がどう絡んでくるのかは読めないのですが……。
いずれにしても風雲急を告げる展開で、これから先どうなるのか、そもそも分裂して語られている二つの「異世界」をどう統合して続けるのかが気になるところですね。電話の少女にしても。

まあ、勝手に思ったことを書いてはいますが、どこまで当たってるんでしょうね〜。
真顔でもっともらしくでたらめを言う人間ですからね、僕は。
とにかく、次巻期待っ!

追記:
どうでも良い追記なのですが、いとうのいぢさんの絵の雰囲気が少し変わったような気がしました。と言うか具体的には長門の横顔のつり目がキツい……。
横顔以外は別に気にならないんですけどねぇ。