スポーツドクター

スポーツドクター (集英社文庫)
スポーツドクター(作:松樹剛史)を読みました。
読後感は爽快の一言ですね。
物語は四つの章に分かれていて、それぞれの章ではスポーツをしていて何らかの問題を抱えた選手が出てきます。
その第一章の患者が、ヒロインの夏希です。
バスケットをしている夏希は一年間も膝に故障を抱えていたのですが、仲間と楽しく部活をやっていたい為に故障のことを隠して、むしろそれを乗り越えんとせんばかりに鍛えて部活をやっていました。
そんな中であることがきっかけに発覚する故障。
第一章で提示される「言うべきだったのに言いたくなかった」事実、そして「言わなければならない時には言わなければならないのだ」という主人公の医者である靫矢の主張が、続く章での夏希の振る舞いに、スタンスに大きな影響を与えてきます。
さわやかなバスケ部員の仲間達や、やる気なさげだったのに急に熱血化する顧問の福島先生の様子に爽快感を覚え、これから始まる物語が怪我や故障などともすれば暗い話題に進みそうな出来事を扱うにもかかわらず物語自体にはどこか救われる安堵感があることを感じさせてくれました。

第二章は野球の話。
yoshikemがもっとも嫌いな体育会系ばりばりの考え方の話です。
医学より経験を重視して、間違ったスポーツ指導をする親と、その子供の話ですね。
ここで見られる閉鎖空間の異常性が、また物語のサブテーマとも言うべき夏希と義陽のやりとりに反映されてきますし、最終章を作っていく上でも重要なキーになっています。
ヒロイン夏希は三年生ということで部活を終えて靫矢クリニックで働くことになります。
靫矢の、最善でないと判っていても、選べる選択肢の中で最善を選ぶ、という姿勢がここでもまた見られます。
現代日本での「少年スポーツ」の持つ問題点を鋭くえぐる内容です。
出てくる野球少年の周囲の環境を見ていると、ついつい夏希の心情に同調して憤りを感じてしまいます。
今は少なくなってきていると思うんですけどねぇ。
そんなに本格的にスポーツをやらないyoshikemには余り関係のない話、とも言えます;

第三章&第四章は水泳の話です。
第三章では水泳選手が陥りがち(らしい)摂食障害を、青年男女の恋愛事情と絡めてリアルに描き出してます。
はぁ、と思わず納得してしまうような、実際に今この瞬間にも起きていそうな出来事です。
第三章は第四章を作るための下準備的要素が多かったような気もしますから、ちょっと解決のあたりがあっさりしすぎかなと言う感じも否めないのですが、この回は患者を周囲から描いていくことでスポーツをやる人と周りの人との関係で起こる障害もあるということを非常にリアルに描いていると思います。
人間関係に関して第四章の下地をきっちり練り込んで、さあ、最終章だ、と言うわけです。

最終章、第四章ではこれまでの病気や故障と言った「スポーツ選手の病」ではなく、ドーピングという「スポーツ界の病」に焦点が当てられています。
読み進めていくと(当たり前と言えば当たり前なんですが)、この物語は第四章ありきで進められていたことが判ります。
突然でてきたアンチ・ドーピングのスポーツジャーナリスト、江さんとの出会い、そして義陽のジムの会員である水泳選手文乃のライバルであり、第三章の患者真沙子の事を心配してくれていた選手である水泳選手にドーピングの疑惑があるとのことで、夏希もコネがあるので調査の手伝いをすることになります。
ドーピングは本当に間違いなのか、というドーピングの是非を問うてしまう場面もあり、夏希は調べていくウチに実際にドーピングの是非について疑問を持ってしまいます。
しかし、ドーピングで苦しんでいる人がいるのも事実。
ドーピングはやはりいけないんだという結論に、夏希は達します。
まあ、結末は……ということで。

個人的には文乃というキャラが出てきた時点で義陽と夏希の間にわだかまりが出来たり、と言う展開を想像してしまったんですが、それって本筋からかなり離れちゃうんですよね……。
だから無かったんでしょうね。
最終的にエピローグで義陽と夏希の恋愛をまとめちゃってるんですけど、これってまあ本筋から行けば……実は重要なのかなぁ……、まあサブストーリーだとは思うので、そこで二人の関係を敢えてこじらせて乗り越えて、とかは行かなかったんでしょうね。

というわけで、さわやかに読める青春小説でした。
処女作の「ジョッキー」にも興味がわいているので、近日中に手を出しそうです。