Revival Restarter〜風車小屋66より

今書かないと、多分ずーっとずるずる行く。そんな気がしたので……。
えーと、NFで京大漫研が出した冊子「風車小屋66」に掲載されている市町村氏の150Pに及ぶ大作漫画。
なんというか……、まずそのボリュームに圧倒されたって言うのが、とりあえず第一印象。
で、どっかで見覚えがあるというのが、第二印象。
後者については、それもその筈。氏の原作で同漫研の別の絵師さんが漫画を(一部)書いていたのを、僕は読んだことがあったのだから、見覚えがあるのも当然のわけです。
あとがきにも書かれていたんですが、もともとこれは氏が書いた小説で、それを一度熊太氏が風車小屋61号にて漫画化。この度大幅に再構成して氏自身の手によって漫画化されたというのが、この風車小屋66号に収められたRevival Restarterだそうです。
再構成された本作の方が色々な点がスッキリしている印象でしたね。全体的にまとまっているし、話の落ちまでキャラの性格が良い意味で引っ張られている。うん、すごい。いち物書きとしてこの構成力は見習いたい。
で、本編の話なのですが。

物語の舞台となる町を最近騒がせている一つの事件。それは「倍々ナイフ」と呼ばれる通り魔殺人事件。人を殺す度に体に1,2,4,……と倍々の数の穴を開けていく猟奇的な殺人鬼。
そして倍々ナイフと同時に広まっていくもう一つの騒ぎ「穴あけナイフ」。こちらは被害者を気絶させて服に穴を開けるだけのただの模倣犯だという。


そんな事件が起きている町で高校生活を送る片岡貴理人、そして彼が一目惚れしてしまった愛川美月。
物語が動き始めるのは二人が出会った4月から随分と月日の経った2月。白い雪の舞う季節。
二人がつきあい始めた頃のこと。


貴理人は彼女が横たわる猫の首にナイフを突き立てるのを目撃する。
愕然とする貴理人に美月は言う。
「死んだものを何でも甦らせる。そう言う力があるんです。私には」
月だけが、静かに二人を見つめている。

という具合のストーリーで、世界観としては「ちょっと不思議なことアリの現実世界」という感じで、イメージとしては型月ワールドが近い気がします。この辺はあとがきで作者自身が「TYPE-MOONの影響は受けているだろう」というようなことを書いておられるので、まあそんな感じで。
物語の鍵を握るのは「死んだものが生き返る」という普通ではあり得ない現象。ドラゴンボールなんかを見てると麻痺しますが、作者があとがきで触れるように確かにこれはある種物語の「タブー」なんですよね。
人が死んでも生き返る。それが可能な世界では、人は死に対して恐怖を抱かなくなる。生き意地汚くなんてとてもならない。少なくとも私たちが生きているこの世界の価値観は、そこでは崩壊するでしょう。場合によっては「お腹がすいたら食べればいい」、と同じ感覚で「死んだら生き返ればいい」が語られてしまうんですから。
そんな価値観の崩壊が、この物語の一つのテーマ。美月の力は恐らくこの世にはあってはいけないもの。そう感じた貴理人のとった行動は、生き物としては至極当たり前の行動で、そしてそれを素直に実行してしまったら物語は決して円満解決を迎えない道。そこからの主人公の心理の転換が巧くて、読み手としてはなるほどと納得させられてしまいました。
物語のもう一つのテーマ。それは勿論ボーイ・ミーツ・ガール。
ほんと、これの中身は良い意味でラノベですよ。出会った男女は恋に落ちる。その過程が物語のテーマ消化と良い具合に絡み合って、ラストでは一つの結論を導き出している。そこで確かに貴理人も美月も考え方が変わっているんですよ。それ故にこの物語には存在する価値があったと、そう思える程度に。
字書きとしてどうにも話の構成の方ばかりに目が行くわけでして……、全体的な展開も適度に遊びを交えつつ、大きな無駄はなく、読んでいるウチにどんどん引き込まれてしまいました。デートの交え方と、デート後の怒濤の展開は凄かった。美月の過去を挿入する方法もこれしかないという感じで素直に読めましたし、素直に巧さを感じます。


まとめると、「ごちそうさまでした満腹です」
キャラ的には美咲が大好きです。
そんな感じ。
とりあえず、畑は違えども、こんなもんを見せつけられれば創作意欲が黙っておられん。ということで、燃え上がっておる現在なんですよ。