あぁ、この野郎

わかっていた。
だって奈須きのこだし。
こうなることは初めからわかっていたつもりだっていうのに。
やられた。
ハードボイルド、とも少し違うか。どう表現したものやら、とにかく恰好いい、それはまるでブラックコーヒーのような真っ黒で苦い世界が、まるでコーヒーの底になにかの間違いで溶けずに溜まっていた砂糖のような幸せの甘さ。
それはどう考えたって噎せる。
噎せるしかないじゃないか。
式の物語としての空の境界はそうやって閉じて、幹也の物語は最後にもう一声、ある意味全然救われない結末が描かれる。それは、これまで積み重ねて来た構図の逆転で、甘さに噎せていた意識が急に、それでもこれはコーヒーだと思い出して、苦みを反芻するような、そんな感覚。
あぁ、もう、この野郎。
やられた。
だから、奈須きのこは好きだ。

和歌山で巡検なんですが、行き道で持ってきたらっきょの下巻を読みきってしまった。
仕方ないからもう一回読むことにしよう。
なにせ、出町柳を七時半に出たっていうのに行き道だけでまだ一時間ある。
遠いなあ。