僕と先輩のマジカル・ライフ

ひさびさのはやみねかおる
夏の角川文庫フェアで見かけて衝動買いして……、もう何ヶ月?
ともかく、はやみねさんのミステリーは大好きなんですよ。本格的であっと驚かされて、それでいてほんのりどこか暖かみがある。
これもそんなはやみねミステリの神髄がたっぷりと含まれている一冊です。
主人公は井上快人という、大学の新一年生。そして、快人の彼女(兼幼なじみ兼腐れ縁)で霊能力者の春奈、そしてとてもふしぎな8回生の先輩、長曽我部慎太郎が身の回りで起きるふしぎな出来事をオカルトと論理の二側面から見ていくという、いかにもありそうでない話。このリアルな世界観がはやみねミステリの良さの一つだと思います。
物語は四つの連作短編からなり、「下宿に出る幽霊」「地縛霊の仕業とされる自動車事故」「プールに出る河童」、そして「桜の下の死体の噂」という、どれもこれも日常と紙一重の場面で繰り広げられる少しふしぎな事件達を取り扱っています。
面白いことに、先輩がオカルトマニアでその所為で快人と春奈が「あやかし研究会」などという組織に所属させられそこから事件へと関わっていく為に、最初は必ずオカルト的な導入から入るんです。ミステリーの謎っぽさを出す為にトリックをオカルトに絡めるのは、まあよくあることと言えばよくあることでしょう。しかし、これはいわば「探偵」である主人公達がまずオカルトから捜査に入るんです(とはいえ実際オカルト推理をするのは先輩だけで僕=快人と春奈は結構論理的に考えてますが)。
他にも面白いことがあります。この話に出てくる事件は結論から言ってしまえば(ミステリーですから)ちゃんと種も仕掛けもあって、論理で証明できることばかりです。つまり、オカルトを肯定する要素は話の中には一切存在しないのです。ただ一点を除いて。その一点とは、春奈の霊能力です。春奈が霊能力を持っていると言うことを、幼なじみである僕=快人は沢山の経験から嫌と言うほど実感していて、こればかりは認めざるを得ないと言うことで認めているのです。だから、世界観として「ふしぎなこともある、のかもしれないね」と言うような曖昧さが残されていて、この世界の広がりがぐっと広がっている気がするんですね。
最後に、その霊能力者の春奈ですが、彼女の立ち回りも結構面白いんですよね。平たく言ってしまえば「居るだけ」なんですよ。霊能力で事件が「オカルトじゃない」と断言したりはするんですが、彼女は結局先輩と一緒になって僕=快人を困らせたり、或いは推理推理に対してけちを付けたり感心をしたりするだけで、具体的に推理を進める手がかりを示したり或いは正解の推理をしたりと言うことはないんです。物語中でさんざん暴れ回って存在感を示している割には、実際彼女が為したことはほとんど無い。こんなキャラの動かし方って、モノ書きとしては興味津々なわけですが……(あ、そんなことない?)。
とにかく、春奈も先輩も、勿論僕=快人もみんな個性的で面白いキャラクター。そしてそんな彼らが関わる事件にも、「あっ」と驚くような真相が用意されていて「流石はやみねかおる」と唸ってしまうこの一冊。とても面白かったです。