イヴは夜明けに微笑んで

えぇと、積ん読消化活動の一環ですが、これは第18回ファンタジア長編小説大賞佳作の作品。
名詠という召喚の技術が存在している世界、これは五色の名詠を使いこなす虹色名詠士と、世界の誰もが夢にも思わない夜色の名詠をこの世に生み出した夜色のイヴにまつわる、切なくも感動を誘う物語です。
正直、アーマことアマデウスが吼えたシーンでは涙腺がじわっと緩みました。

物語を実際に担っているのはクルーエルという赤色名詠の少女と、ネイトという夜色名詠を勉強する少年、それからミオという勉強熱心な緑色名詠の少女の三人。現代を生きる少年少女たちです。
しかし、この「イヴは夜明けに微笑んで」という物語で真に描かれているのは虹色名詠士のカインツと、夜色名詠士のイブマリーだと、僕は思いました。
二つの物語が折り重なっているというよりは、メインは圧倒的に「大人」たちの方で、カインツとイブマリー、そして彼らを取り巻く今は大人となってしまった人たちの方だと思うんですよ。描写字数は圧倒的に逆ですよ。でも、問題は字数じゃないんですよね。
アーマの咆吼にうち震えるトレミア・アカデミーの教師たち、夜色名詠を馬鹿にしていた彼らが、今まさに自分たちの命を救ってくれようとしている夜色の化身、真精たちを認めた時に、プロローグとして描かれていた虹色と夜色の約束から始まった一つの物語は一つのステップを上ったのでしょう。カインツは虹色名詠士として世間に評価された。それに対して、人知れずに夜色名詠を完成させていたイブマリーはこの時に、学生時代に彼女を馬鹿にしていた面々が夜色名詠を認めたこの時に夜色名詠士として世間に認められ、カインツと同じ舞台に立てたということでしょう。
そうして、二人の名詠を互いに見せ合い、カインツは真の虹色名詠を完成させ、約束は果たされる。

じゃあ主人公であるはずのクルーエルとネイトはどうなのか。
彼らにとって今回の話は序奏に過ぎない。
ネイトはまだまだ夜色名詠を使いこなすなんて到底無理な話だし、クルーエルもまだまだ自分の持つ赤色の才能を自分のものとは出来ていません。
二人の物語はこれから始まる。ネイトがいつかアーマとイヴを再び詠べる日まで。

とは言ったものの、なんかこれの続編ってあんまり想像がつかないんですよね。
第一音階名詠(ハイ・ノーブル・アリア)はもう早々には使えないだろうし、そもそも夜色を急にネイトが習熟するというのはなかなか違和感が生じてしまう。
精々イヴが反則的にちょこっと出てきて手助けするくらいですか(今回のイヴ召喚前みたいに)
続刊が本日刊行(ということは生協経由で一月くらいで手に入る)の黄昏色の詠使い、次はどうなるのか。楽しみはあります。