魔王

魔王
伊坂小説はやはり独特である。
が今作にはギャングやラッシュライフで見られたような、伏線を回収し話を収束させる爽快感はなかった気がする。
魔王とは何の話しを隠喩するタイトルなのか(僕はタイトルとは中身を隠喩すべきものと考えている)。
まずはそれが気になった。
今でこそ魔王という言葉や概念はライトノベルのファンタジー世界に於いて一般的に見られるものであり、僕たちにも馴染みのあるものとなっている。
しかして一般文芸の世界ではとんと見ることのない用語であり、またこの本の帯を見ても到底ファンタジーを扱う小説には思えなかった。
疑問は読めば瓦解するが、かのシューベルトの歌劇「魔王」から来ているタイトルだったわけである。
そしてこのタイトルが話の流れと語られないその後を暗に語っている。
話の中身としては政治家を魔王にみたてた、どこか影のある話で案外今タイムリーかもしれない。
作品は読んでいて、実際に自分の将来を危ぶんでしまうような、背筋の冷えるリアリティに満ちている。
だが最後には再び希望の光りのようなものをみることが出来る。
全ての国民がこの作品の後半の主人公達のようであれば何の問題もないのに、と思わずにはいられない。