“文学少女”と神に臨む作家(下)

“文学少女”シリーズ、堂々のフィナーレです。
一巻との出会いは……、なんだっけ。確かネット上でふらっとタイトルを見かけて、気になったんですよ。
それ以前は野村さんとの縁も無く、このシリーズで出会い。絵師の竹岡葉月さんは黄昏〜の方でもいつも楽しませて貰っていますがね。
さて、前巻の上巻があまりにも凄絶な展開で、一体この先どうなるのかとやきもきしていたわけですが(具体的には琴吹さんの動向を中心に)、こうして下巻で作者に結末を提示されてみると、成る程、納得というか、上手くまとめたなぁという感じですか。
細々とした続きは追記で。ネタバレもしなきゃろくろく感想を書けそうにありませんし。




ネタ本はジッドの「狭き門」。僕は海外文学は疎いので全く知らないんですが、至高を目指す為に愛を捨てる聖女と彼女を至高に至らせる為に愛を捨てた男、そして彼に惹かれていたもう一人の女性が鍵になる三角関係の話だったようです。そうひと言で言い切ってしまうと酷く俗な感じですが。
その構図に、遠子と流人の親である叶子、文陽、結衣の関係、そして現代における遠子、心葉、ななせの関係がオーバーラップしながら物語が団円へと向かっていく。
誰もがみんな他人の幸せを願っていながら、誰も幸せになれなかった。
それが今回のテーマです。
他人の幸せを願って身を引く。それは確かに美しい行いで、長い目で見ればその人のためになることなのかも知れない。けれども、身を退かれた側からすればその瞬間裏切られたと感じてしまうのは仕方がない事なんです。
そして気持ちがすれ違ってしまったら、どうなるのか。誰か他人が指摘してあげないと、心のわだかまりは永久に解けない。それも当事者が死んでしまったとあっては尚更、ですね。
叶子と結衣の、お互いがお互いを思った事の不本意なすれ違いと、その犠牲になってしまった遠子、流人。みんなが他人を思いやって気持ちを錯綜させるが為に事態は混迷の様相を呈していく。
まさか遠子が叶子の実の娘だったとは思っても見ませんでしたが、あそこまで捻れた人間関係をひっくり返すにはそれくらいの隠しゴマでないと無理ですね……。
最終的に、くっつくべき人がくっついて、琴吹ななせだけちょっと可哀想って気もしましたが、まあ心葉にななせはちょいと勿体ないという気もしましたね。確かに。別れのシーンはぐっと来ました。この二人なら、別れたあとも良い友人として過ごせるんじゃないでしょうか。実際エピローグを見ればそういう感じらしいですし。
結局、最初からずっと心葉を成長させる為の物語だったんですね。
そして全ての流れは一点に集約して、終わりを結んだ。
うん、良い感じでした。
次の短編集も気になりますね。ええ、楽しみです。