アヒルと鴨のコインロッカー

アヒルと鴨のコインロッカー (ミステリ・フロンティア)

アヒルと鴨のコインロッカー (ミステリ・フロンティア)

この間発売された文庫版ではなく、……ソフトカバー?、ハードカバーではない単行本のやつです。これまた古本市場で買っていたはいいが積んでいたもの……。
それにしても、やっぱり伊坂さんの長編は面白いー。本作はカラッと愉快な面白さとは少し異なってはいましたものの、相変わらずの緻密な伏線と読者をあっと言わせる仕掛けが満載であったような気がします。
今年映画が公開される予定で、五月に仙台で先行上映。……映画のためだけに仙台に行きたいとか思うのは僕だけじゃないでしょう。

物語は「僕」こと椎名が出会う現在の物語と、「私」こと琴美が巡る二年前の物語の、二つの視点で語られます。
「僕」の話は、大学に入るべく引っ越ししてきたところの僕が隣人の河崎と共に本屋を襲って広辞苑を奪う、という非日常的なところからスタートします。一方で「私」の話はペットショップ店員である私が逃げた犬を探すという日常的な場面からのスタート。
両者の物語は、もし「非日常レベル」と言うものがあるのならその総和が一定となるかの様に、日常と非日常を入れ替えながら展開していきます。それぞれの話が切り替わる末尾に同じような形で逆の意味の言い回しを付しているのもそれを表すかの如く。
やがて椎名が大学生活の始まりという非常に非充実した日常の中で河崎のことを考える一方で、琴美はペット殺し事件に巻き込まれていってしまいます。
椎名の話が基本的にのほほんとしている一方で、琴美の話は何だか先が塞がれてしまっているような、未来の途切れた閉塞感のような物を感じて、読み進めるのが正直恐かったです。
そうして、上手く匂わせておいて明かされる切ない真実とは……、と言う感じのお話で、何だか雰囲気は重力ピエロに似ているかも。お話としてはバッドエンドなのかな〜、と言う気がして、読後の爽快感は少なめ。けれどそれは面白くなかったという意味では全然無く、古典用語で言うなら「をかし」でなく「あはれ」だったと言う感じでしょうか。

映画のサイトに行ってみたのです。
陽気なギャングが地球を回す」の映画は微妙だったと言うことで期待は……しているのかしていないのか自分でもよく分からない感じです。
伊坂さん自身が「これを映画にするのはかなり難しいのではないか、と思っていました」と言ったのにも激しく同意で、こんなのどうやって映画化するのかさっぱり見当も付きません。
けれど作品の方は本人お墨付きの出来のようで、期待は膨らみます。
現在の物語で出てくる河崎は瑛太がやるらしく、年末までのだめで峰君をやっていた彼がねぇ……、と言う感じではあるのですがw
幸い京都では上映はあるようですので、心待ちにしておこうかと思います。